毎日新聞 記者の目 2011年11月24日 0時05分 ◇子の幸せを第一に 積極活用を東日本大震災を機に、広く知られるようになった「親族里親」制度。親が死亡、行方不明などになった子どもを、祖父母らに委託する制度で、公費の支援がある。しかし親族里親の認定数は自治体によって大きなばらつきがあり、特に東京都は、施設から子どもを引き取った場合にしか原則として認定せず、門戸を狭めている。親族が子どもを受け入れやすく、子どもものびのびと暮らせるように、制度を積極的に活用してほしい。 親族里親は3親等以内の親族が対象。一般の養育里親より支援は少ないが、それでも子どもが18歳になるまで月5万円程度の養育費が支給され、教育費、医療費などが公費で賄われる。運用は自治体の裁量に任される部分も多い。 ◇東京は1件だけ厚生労働省のまとめ(09年度末現在)では、親族里親に委託された里子は福岡県51人、大阪府42人に対し、東京を含む6都県が1人、高知県はゼロと大きな差がある。 “消極派”の東京都は内規で「児童養護施設などに入所し、当該児童が生計を一にしない親族に引き取られること」を要件と定め、一緒に暮らし始めた後では認定しない。「親族が子どもを保護した時点で、親族里親の制度は必要なくなる」と都は説明するが、他の道府県に都のような基準はない。 都内でめい(7)を育てる女性(44)は、09年に妹を亡くした。妹が住んでいた熊本市から「早急に5歳児(めい)の住所を移してほしい」と求められ、自分たち夫婦のところに住民票を移した。その後、都から、内規を理由に親族里親を断られた。「めいは妹の死に誰よりショックを受けたはず。施設に預けるなど、いっときも考えなかった」と話す。 遺児をとっさに引き取るのは自然なことで、都の運用は実態にそぐわない。 ◇引き取って当然都などの姿勢の背景には、公的な援助がなくても「親族なら引き取って当然」という発想がある。確かに、親族里親の対象者は、民法877条が定める扶養義務がある人だ。だが、いくら親族でも長期の養育は経済的負担が大きい。高齢なら、数年後に自分が介護の必要な状態になるかもしれない。子どもが肩身の狭い思いをしたり、預かった側も葛藤を抱えかねない。 娘をがんで亡くし、当時小6の孫(20)を引き取って親族里親となった千葉県の女性(69)は「教育費や養育費が支給されて本当に助かった。孫にも進路などで気を使わせずに済んだ」と振り返る。女性が親族里親の制度を知ったのは、孫が中3の時。それまでは「お金の心配だけはさせたくない」と、へそくりも使ってやりくりしていた。民法上の扶養義務と公的な支援を、対立的に考える必要はない。 親族里親に詳しい日本女子大の林浩康教授(社会福祉学)は「全く知らない施設や家庭に行くより、なじみのある親族に引き取られる方が、子どもの負担は小さくて済む」と指摘する。実際、福岡県や三重県、京都府などは「子どもにとってよりよい環境を」と、積極的に制度を活用している。栃木県も「子どもが親族宅を希望すれば認定は当然」と話す。先の東京の女性のケースについて福岡県などは「詳しい事情は分からないが、本県なら認定するだろう」と話す。 取材を通し、国の姿勢にも問題があると感じた。地域間格差を専門家や里親関係者が問題視してきたが、厚労省は原因調査や対策に踏み込んでこなかった。 もちろん無制限の認定は許されない。複数の県は「裕福な親族にまで税金を出す必要はあるだろうか」と話す。現行の定額支給を、里親の経済力に応じ段階的金額設定に改めるのも一案ではないか。 ◇福祉の網かぶせ認定の意義は、経済援助だけではない。公的な里親になれば、児童福祉司らが定期的に家庭訪問をする。和歌山県では、一般の養育里親と同様に研修も受けられる。阪神大震災で被災児童を支援した家庭養護促進協会神戸事務所の米沢普子さんは「当初は『助けたい』という気持ちが強いが、日常生活に戻ると、実の親子でない違和感や遠慮から、双方にストレスが生じる。手当だけでなく、福祉の網をかぶせることで子どもを見守り続けられる」と語る。 東日本大震災では240人もの子どもが、両親がいない遺児になった(10月末現在)。震災を受け、9月には厚労省令が改正され、おじ・おばは親族里親でなく、支援が手厚い養育里親とされた。今ほど、里親の重要性が再認識されている時はない。親族任せ、個人任せにせず、社会的に養育するのが親族里親制度の趣旨だ。子どもの幸せを第一に考え、社会全体で守るという、原点を見失わないでほしい。(生活報道部) |
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