沖縄発ヒーロー 琉神マブヤー

2011/11/27 20:32 に Naofumi Nakato が投稿

2011年11月22日 東京新聞朝刊

 沖縄のテレビ番組から生まれたヒーロー「琉神マブヤー」が島を飛び出し、活躍の場を広げている。十月からTOKYO MXで放送開始。来年一月七日からは映画「琉神マブヤーTHE MOVIE七つのマブイ」が全国公開される。魔よけの像・シーサーがデザインされた南国のヒーローは、東南アジアなど海外への進出も目指す。 (早川由紀美)

 二十日夜、東京・渋谷公会堂でキャラクターが総出演する有料のマブヤーショーが開かれた。集まったのは約二千人。多くは小さな子どものいる家族連れだ。子どもをベビーカーに乗せ、ママ友と来ていた相模原市の香山加代子さん(41)は沖縄出身。「帰省したときに、おいっ子がはまってた。人がたくさんいて驚いてる。地方から出たヒーローでこんなに人気なの、ほかにないよね」とうれしそうだ。

 マブヤーはそもそも、沖縄の観光土産業者・南西産業の「お土産品として成り立つ、独自のキャラクターを作りたい」という思いから始まった。

 「単に土産物だけでは楽しくない。県民にきちんと認知してもらい、地域貢献もしたい」と話は広がり、マブイ(沖縄言葉で魂)の戦士マブヤーを主人公にした一話十五分のテレビドラマが、二〇〇八年十月から琉球放送で始まった。ヒーローたちのスーツの制作などでは、秋田のローカルヒーロー「超神ネイガー」のスタッフたちの協力を得た。

 ドラマの骨格を成すのは、マブヤーと悪の軍団マジムンとのマブイストーンの争奪戦。県内に散らばるマブイストーンはそれぞれ沖縄言葉やエイサーなど沖縄の特色をつかさどっており、悪の側に渡ったときは、島からその特色が消失する。ゆるいコメディー調のやりとりをはさみつつ、沖縄のアイデンティティーを一つ一つ確認していく筋立てにもなっている。沖縄言葉も一部そのまま使った。

 「沖縄のテレビも東京発の番組が中心で、子ども世代は沖縄のことを知らない全国均一の状態になっている。沖縄の伝統や言葉を、子どもたちに知ってもらうきっかけになればと考えた」。古谷野裕一プロデューサーは振り返る。

 これが、おじい、おばあ世代に受けた。県内各地のスーパーなどで開かれるキャラクターショーには、開始前から孫の手をひいたおじい、おばあが行列をなすように。時間におおらかな沖縄でその事態は、かなり異例のことという。Tシャツや携帯ストラップなど関連商品は数百種類。一口百万円でマブヤーの貯金箱がもらえる地元銀行のマブヤー貯金は、六人の孫のため、六口入った人も。経済効果は百億円単位ともいわれている。

 ブームは東京の情報番組などでも取り上げられるように。地元の土産物店のおばちゃんも本土から訪れた観光客らにマブヤーを強力プッシュ。その中には漫画家や芸能人もおり、認知度はさらに高まった。

 現在、沖縄では三シリーズ目を放送中。映画には沖縄出身の俳優らが多数出演する。マブヤーは山田親太朗、ともに戦う龍神ガナシーはISSA。ガレッジセールのゴリや仲間由紀恵も出演する。

 「東京行くのも香港行くのも時間は変わらない」という地理的環境の中で、当初から夢は海外進出。沖縄からの移民が多いハワイでは英語字幕付きでテレビ放送が始まった。米軍基地内で英語でのキャラクターショーも試みている。

 マブヤーは敵をとことん倒してしまうことはしない。「悪いとされる側にも言い分はある。オニヒトデが大量発生してサンゴを食べてしまうからといって、オニヒトデを根こそぎ駆除すればいいのか。海の水温の上昇の原因は人間にもあるのでは」(古谷野さん)

 敵を許すという感覚や、守り神の存在、音楽など、沖縄と東南アジアは共通点が多いと古谷野さんは考えている。その国の俳優に出演してもらっての現地版の制作なども検討中だ。

 

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