2011年11月2日 琉球新報 社説 憲法違反の指摘に正面から答えず、小手先の法解釈で問題収拾を図ろうとすること自体、限界がある。八重山教科書採択問題をめぐる文部科学省の対応のことだ。 県教育委員会の大城浩教育長は、森裕子文科副大臣と面談し、竹富町を国の教科書無償給与の対象外とする文科省方針に異議を唱え、一本化に向けた再協議を提案した。だが、文科省は拒否し、今月末までに八重山地区に必要な公民教科書の冊数を報告するよう県に求めた。 一本化できない場合、八重山採択地区協議会の答申通り、「新しい教科書をつくる会」系の育鵬社版を採択した石垣市、与那国町は無償とするが、東京書籍版を採択した竹富町に自主購入を促す同省の見解を重ねて示した。問題の本質を糊塗(こと)したまま期限だけを設定しても抜本的解決には程遠いと強く認識すべきだ。 憲法26条は無償での義務教育を定めるほか、教科書無償措置法は、無償給付する主体を「国」と定めている。文科省方針は憲法違反かつ無償措置法違反との指摘があるが、文科省はこうした疑義に真摯(しんし)に向き合うことが先決だろう。 一連の問題を通して、教科書採択をめぐる法の不備も浮き彫りになった。無償措置法は、地区で同じ教科書への統一を求めるが、同一にならない事態を想定せず、一本化の道筋を示していない。加えて、教科書の採択権は教育委員会にあると規定する地方教育行政法とどちらの法が優先するかが明確でなく、混乱に拍車を掛けている。 政府は先月7日の閣議で、無償措置法が地方教育行政法に対し部分的に優先するとの見解を示す答弁書を決定したが、特別法が一般法に優先するとの一般論を述べたにすぎない。無償措置法は無償措置の対象外について規定していない。文科省は今後、こんな手前勝手な解釈で教育行政を進めるのか。 繰り返し指摘してきたが、混迷の発端は、八重山採択地区協議会の玉津博克会長(石垣市教育長)が、順位付けの廃止や調査員の独断選定、協議会を非公開とし選定を無記名投票とするなど、不公正な手続きで採択方法を次々と変更したことにあることを忘れてはならない。 何よりも文科省は、一本化に向けた道筋を明確に示す義務がある。弥縫(びほう)的な対応では、いずれ教科書採択をめぐる混乱が全国に拡大するのは避けられない。 関連すると思われる記事 文科相発言に抗議 八重山教科書採択(2011.10.28) 無償措置法が優先 八重山教科書問題で閣議決定(2011.10.8) 八重山教科書「協議会討議方式でない」 玉津教育長、市議会で答弁(2011.9.28) 八重山教科書問題で県内3党 文科省指導に三者三様(2011.9.17) 県教委の要請従わず 八重山教科書協議会役員会(2011.8.10) |
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