学校で導入の進むキャリア教育。職場訪問や企業人の講演などで、子どもたちの職業観が養われる半面、日程調整などは多忙な教諭に荷が重い面もある。県外では、ノウハウのある民間団体が仲介役となる例も増え始めた。その沖縄版となる社団法人を那覇市で立ち上げようとしているグループがある。 中心メンバーのうち、女性二人は発達障がいのある子を育てている。子育て経験を出発点に、子どもたちの多様な個性と社会を結びたい、と取り組みを志した。その一人、那覇市の新垣道代さん(34)の長男(7)は、人の輪になじみづらい。保育園では同級生が教諭の話を静かに聞いていても、別の部屋で積み木遊びに熱中していたこともある。 興味が強過ぎて場の空気が読めない状況にも新垣さんは「楽観的だった」。コミュニケーション不全と表裏をなす「没頭できるだけの集中力」を個性と認めたから。「打ち込めるものと出合えば変わる」との確信は現実になった。 長男はことし6月、自ら望んで空手道場に通い始めた。苦手な形は、一緒に入門した新垣さんが家でも教え、2カ月後には初の昇級審査で合格した。白から黄色になった帯を締めた道着姿から「どこか遠慮がちな学校と違う。年上の子相手にも堂々と振る舞う」と成長を感じる。 個性を認め、寄り添う手法が一般にも通じる手応えを得たのは2010年、県の学生就職支援に携わってからだ。次々と働き口の決まる同級生の中で、取り残された感を抱く学生たち。面接の練習相手を何十回も務め、粘り強さの自覚を促すなど、就職を決める手助けをした。学生の「自分にも長所があるんだ」と涙する姿も見た。 “就職競争”や学校という特定の価値観の輪になじめず、孤立を深める人々がいる。しかし、別の観点から個性を認め、育てる後押しさえあれば、居場所は必ず見つかる―。新垣さんらと社団法人を準備する一人、沖縄大非常勤職員の山崎新さん(29)=豊見城市=も共鳴する。 05年から企業約50社と提携して環境教育を進める山崎さんが、北部の子に身近な生き物を尋ねたときのこと。日本最大級のサギをはじめ、20種類以上が挙がった。すみかを問うと「どこにでもいるやし!」。素っ気ない答えは、古里の自然を見慣れていたからだ。都会にはない、貴重な環境だと伝えると、口々に細かな生態を語り出した。表情は誇らしげだ。 山崎さんは、子どもたちに同世代や教諭とは異なるまなざしを注ぐキャリア教育が「自信を持つことや、成功体験を後押しできる」とみている。 新垣さんは「多様性を育てる仕組みが浸透すれば、独特の個性を持つ子どもたちにも暮らしやすい社会になるはず」と、言葉に親心をにじませる。 社団法人の発足は年明けを見込む。(「絆」取材班・堀川幸太郎) ご意見・情報を募集 連載に関するご意見、情報をお寄せください。沖縄タイムス社会部、電話098(860)3552、ファクス098(860)3483、メールkizuna@okinawatimes.co.jp |
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