子どもを守る文化会議・沖縄集会

第55回子どもを守る文化会議・沖縄集会 開催にあたって
2010年3月       
仲渡尚史(集会事務局)
新しい共同が沖縄で始まる。

 

美しい海に囲まれたこの島では、海で遊んだことのない子どもたちがたくさんいます。海を見ることもなく、楽しむこともなく、暴力に怯え暮らしている子どもたちも… その生きることの子どもたちの命の困難さは、沖縄の歴史、政治的支配の構造、米軍基地の存在を抜きにしては語ることが出来ません。


私たちは、自分たちの困難さを、貧困を、基地を、暴力を、自分一人の力では変えることが出来ないものとして受入れ、其処に発生する困難さは、自己が負い、また、子どもにも負わせて、生きていくしかないものだと諦めてきました。

 

しかし、いま沖縄は変わりつつあります。1995年の少女レイプ事件の後、子どものしあわせを奪う現状を、ただ「被害」として受け止めるのではなく、自分たち一人ひとりが現状を変えられなかった「加害」の責任を担うことで沖縄島民の中に、大きな価値転換生まれました。


市民を分断し、自己責任を押しつけようとす人々とは対照的に、そこは新しい共同の芽が育ちつつあります。沖縄に本来あった豊かな関係性、人と向き合い、その痛みも分け合い、我がことのように助け合う関係。強さを求めるだけでなく、弱さをも受け入れ認め合う、人の繋がりを結び直す時が来ています。


「支援」が、枠組みや制度としてではなく、また、権利や要求というやりとりでもなく、当事者自身が、他者との関係性の中で、個々個別に支援につい共有する作業を行いながら、支援のあり方、その人の生きる場を変え、結果として大きな社会変革を起こしていくという新しい流れが起きつつあるのです。


この新しい流れは、沖縄の社会・文化の中で、また、それぞれのコミュニティの中で、共に老い、学び、育っていく、新しい共同の可能性へと繫がっていくようにも思っています。



課題

 

「こどものしあわせ」を願うことから始まった沖縄の動きは、今後止まることはないでしょう。一方で、こうして動かなければ、もうどうしようもないほどの沖縄は危機的な状況にあるということも事実です

 

OECDが行った国際比較によると、日本の子どもの貧困率は13・7%(2004年)、約7人に1人の子どもが貧困状態とかなり深刻な状況にありますが、この基準(例えば日本では4人世帯で254万円)は、一人当たりの県民所得が全国平均の304万円に対して、202万円(平成17年度)の沖縄の子どもたちは、その倍近くのが「貧困」常態に置かれていると推測できます。

 

こ のような圧倒的な「経済的貧困」は、沖縄において、地域、親族のつながり「社会的関係性の豊かさ」によって補われ、生き延びてきた面も確かにあります。し かし、いまや沖縄における核家族世帯の割合は全国4位62.1パーセント。社会的にかろうじて支えていたものが、ここにきて一気に崩れていく可能性がそこにはあります。

 

危険な貧困の状況は、先に述べた新しい共同、新しい関係性の構築によっても、救われなければなりませんが、基礎的な収入、就業の面において、根本的な解決 がなされなければ、やはり状況は厳しいといわねばなりません。また、経済成長をはばむもの(成長することが必ずしも善ではありませんが)が、基地政策であることも、ここにあらためて付け加えておきます。

 

沖縄は、その民族、歴史、文化的、地理的な様々な状況にあって、他府県とは違います。たとえば、この小さな沖縄をはじめとする、離島群では、一つひとつの子どもの困難な状況に対して、中国地方、関東地方・・のような広域のネットワークを組むことができず、孤立しがちです。ありとあらゆる社会的な保障が遅れているにもかかわらず、他の地域からの情報、支援からの孤立しているため、困難な状況にある家族は、自らが困難で、支援が必要だということにすら気がつかず、生まれながらの自己責任としてその困難さを継承し、衰弱しています。

 

行政学では、子どもに関する教育、福祉は地方自治体の専権事項であるという考え方があるようです。そうであるならば、この子どもの困難さを、真っ先に、直接的に救う「地方独自の子ども支援施策」が必要ではないでしょうか。

 

現在、私たち沖縄子ども研究会では、県内の多くの皆さんにご協力いただき、『沖縄子ども白書』の編纂と、2010年3月21日、22日の『第55回子どもを守る文化会議・沖縄集会』に向けた準備を進めています。沖縄の子どもたちが向き合ってきた、長年の経済的、社会的な貧困、暴力の連鎖を断ち切るためにも、より多くの皆さんとともに課題の共有を行い、未来に向けて「子ども支援」の具体的で有効な提言について議論することができればと、望んでいます。ぜひ、この機会に、より多くの方に遠い沖縄まで足を運んでいただきたいと願っています。豊かな関係性を結び直し、当事者と共に始める、子どもがしあわせな社会への変革のために。